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明大前の骨董品店で買った“モルフォ蝶の壁掛け”

このモルフォ蝶の壁掛けを買ったのは、明大前の古道具店。思い出を話すと、少し長くなります。

時は遡って2009年。学生時代を京都で過ごした私は就職のため、3月に上京しました。
初めて上京する街に選んだのは京王線の明大前と、井の頭線の東松原の間。音楽の趣味が合い、たまに連絡をとっていた高校の同級生のA君が東京の大学に行っていたので、「初台が勤務先なのだけれど、住むにはどこがいいと思うか」と聞いてみたのがことの始まりでした。

年が明けてAくんから来た年賀状は、私が人生で受け取ったハガキの中で一番変わっている内容だったかもしれません。

「渋谷 ○○ △△ ××
新宿 ○○ △△ ××
下北沢 ○○ △△ ××
吉祥寺 ○○ △△ ××
以上の理由から、明大前がいいと思います。 」

そう。駅名のあとの○○ △△ ××には音楽好きなA君らしく、レコード店の店名が書かれていたのです。
一応、初台からそう遠くないところに住みたいと話していたので、京王線沿いで選んでくれたのだと思います。私が持っているのはA君からもらったレコード1枚だけで、再生機器も持っていないのに、私の上京する街は各地のレコード店へのアクセスのしやすさで決まりました(もちろんそれだけではないけれど)。

それから数ヶ月後、上京して初めての会社員になった私は、通勤で降車する明大前駅の近くにある骨董品店によく立ち寄っていました。
骨董品店はなかなか緊張する距離感なもので、最初はもじもじしていたのだけれど、そのうち店のおじさんと話をするようになりました。ちょうどA君が藤子不二雄A先生の「魔太郎がくる!!」の影響で昆虫の標本にハマっており、話を聞いていたせいもあったかもしれません。私は店に飾ってある、この青い蝶の皿がとても綺麗だなと思いました。

こんなに青い蝶は見たことがない。聞けば、ブラジルや南米、中米のあたりにいる蝶とのこと。

モルフォブルーとも呼ばれる青いメタリック色は、色素によるものではなく、鱗粉の構造によるものだ。構造色と呼ばれ、極小の襞(ひだ)のような構造が、青い光の波だけを跳ね返し、重ね合わせ、青を強めるという現象(干渉)によって色が見えるのである。

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/15/269653/110200016/

色素ではない青。青なのに青色じゃない。とっても不思議。さらにモルフォ蝶は、常に青く輝いて見えるわけではなく、青いのは翅の表側で、それが見えるのは翅を広げたときだけなのだそうです。そんな貴重な青を拝んでいるとは。
ちなみに本件とは全然関係がないですが、レクサスの特別ボディカラーにもこのモルフォ蝶の発色原理が用いられたことがあるそうです。

欲しいな。いくらだろう。値段がついていないな。売り物じゃないのかな。

そう思った私は、骨董品店のおじさんに尋ねてみました。案の定売り物ではなかったようですが、「自分はもうたくさん持っているから」と、そう高くないお値段で譲ってくれました(たぶん)。

蝶の翅が敷き詰められたこの皿とメタリックな色合いは、じっと見ているとなんだか少し怖いような気がします。そして今、手に取って眺めてみると、手に入れた当時はもっと青かったような気もします。実際に色褪せたのかもしれませんが、初めて見たときに記憶に残った”思い出の青”は本物よりもっとずっと深かったのかもしれないな、と思いました。

どこか異国で殺されて、皿にされてしまった蝶さんよ。翅だけ見ていると人間はなんて勝手な生き物なんだ、と思うけれど、明大前を羽ばたき、幾度もの引っ越しを経て、今も一緒にいます。レザーや毛皮、生き物を殺して作った服飾品は残酷だと言われるけれど、かつて生きていたモノのパーツには死してなお不思議な力があるように思う、そんなモルフォ蝶のお話でした。最近は明大前にめっきり足を運んでいないけれど、あの骨董品屋さんは今もまだやっているのだろうか。今度行ってみようと思います。

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オーナー

金田悠/YU KANETA

本サイトの管理人。北海道旭川市出身、横浜在住。多様性のあるやさしい社会を目指して、フリーランスの広報PR・ライターとして活動中。マイブームはメダカの観察。
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<参照記事>
ナショナルジオグラフィック/コスタリカ 昆虫中心生活 第106回「森の宝石」モルフォチョウがやって来た!
GAZOO/青く見えるのに青色じゃない!「モルフォ蝶」の発色原理を応用したレクサスの特別なボディカラー

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